キルルは宇宙人である。
キルルは紫である。そしてほのかに発光している。
キルルは変身すると金髪碧眼美……少年である。
キルルは男……
「だよなっ!そうに決まってるよな!」
天輝はキルルの両肩をバシバシとたたいた。
「いきなりどうしたんだい天輝?」
キルルが目をパチクリさせて天輝を見る。
「どっちなんだよぉぉぉぉぉぉぉーーーーーっ!」
「だからどうしたのさぁーーーーーーーーーっ!」
天輝は重症だった。
今日もキルルの性別はわからなかった。
もし女だったからといってどうということもないと思うのだが、やはり気になってしまうもので天輝は夜も眠れずにいた。
日に日に目が血走り世にも恐ろしい形相になっていく天輝を見て大学の友達は心配そうに声をかけた。
「おまえ最近どうしたんだよ。」
天輝はため息混じりにつぶやいた。
「あのさぁ、ゴジラとモスラとキングキドラってメスだと思うか?オスだと思うか?」
「は?」
「もしくはバルタン星人やピグモンでもいいんだけどさ。」
「ちょ、おい?」
「頼むから誰かおれに奴らの性別を教えてくれぇぇーーーっ。」
「頼むから正気に戻ってくれぇぇぇぇーーーーーーーーーっ。」
天輝はかなり重症だった。
「天輝、おまえ誰かに恋でもしたのかよ。」
友達が少し離れたところからそう言った。
天輝は思わず自分の耳を疑った。
「バカ言うなっ!おれはそこまで堕ちちゃいねーーっ!」
充血した目を見開いてつばきを飛ばしながら猛反論する天輝に、友達はダッシュで逃げて行った。
(冗談じゃない。紫のなまものなんかに恋してたまるか。ったくなんだって人が悩んでるとそうなんでもかんでもそっち方面にやりたがるんだ。)
と、目を険しくして天輝はふと思った。
(女だったからってなんだっていうんだ。)
キルル性別詐称(?)疑惑が浮上してから何度も心に言い聞かせた言葉だったが、今のは少し響きが違った。女だったからといって二人の関係が恋人同士になるわけでもなければぎこちないものにするつもりもない。女でも男でも二人の関係は厄介者宇宙人ととんでもない不幸に見舞われた薄幸の善人地球人。
今までと何ら変わりがない。それでいいのだ。
きっと、その紫の発光体が同じ立場になったなら
「男でも女でも天輝は天輝だよ。」
などとぬかすだろうから。
天輝は一転して晴れ晴れとした顔になり、驚かせた友達の肩などをたたいて帰宅した。
が。
天輝のその余裕はひどく儚いものであった。
天輝が家に帰ると、キルルが鏡よ鏡よ鏡さんしていた。鏡に映った自分の姿に向かって語りかけていたのだ。しかしそれはカン違いだった。キルルがのぞき込んでいる向こうには鏡などない。つまり、空間にキルルの姿がそのまま映っているのだ。
キルルのドッペルゲンガーがいる!
天輝は言葉を失ったが、それもカン違いだった。
「あ、天輝お帰りっ!今テルルと通信がつながってるんだっ!天輝も何か話さない?」
「テ、テルル?」
名前からしてどうやらキルルの仲間らしい。それにしてもこんなことが出来るとはさすが宇宙人。天輝がそう感心していると、
「テルルは僕の婚約者なんだよっ。」
キルルが満面の笑顔で言った。
天輝、病気再発。
「どっちだっ!どっちなんだっどっちなんだよぉぉぉぉぉぉぉーーーーーっ!!」
「だから本当にどうしたのさぁーーーーーーーーーっ!」
キルルは天輝の考えていることがまるでわからず首をひねった。
その後ろでテルルの目が妖しく光ったのに天輝は気がつかなかった。
「キールール!この人がさっき言ってた天輝さん?」
「うん。そうだよ。僕の大事な友達なんだっ。」
「ふーん。あなたがそうでもあっちはどうかしらね。ねぇ、天輝と二人で話してみたいんだけど、いい?」
「うん。いいよ?」
そういうわけだから。と言われてテルルの映像の前に引きずられた天輝は何がなんだかわからないうちにおそらく地球人初の宇宙人との交信をするはめになっていた。
「あの、初めまして。天輝です。」
内心「オレ何してんだろ。」と思いつつまずは下手に出てみる。
「あなた、キルルに恋をしているわね?」
天輝は思わずテルルの映像にヘッドバンキングを喰らわせた。
「まぁ、そこまで情熱的に肯定されるなんて思わなかったわ。キルルは渡さないわよ!あんな可愛い子なかなかいないんだから!」
「ちがぁぁぁぁう!オレを宇宙人の恋愛沙汰に巻きこむなぁぁ!おれはただだなぁ、キルルが男なのか女なのか気になって女だったらばやはりジェントルマンにならねばならんかなーと…」
そこまで叫んで天輝ははたと我に返った。
「ふーん。天輝はそんなことで悩んでたんだね。」
心なしか声に怒気をはらんだキルルがすぐ後ろに立っている。
そしてやはりキルルは怒っていた。
「僕が女でも男でも僕は僕だよっ。姿がこの状態でも人間になった状態でも僕は僕なのと同じ。この前そう言ったばかりなのにどうして天輝は忘れてしまうんだい?きっと、とてもとても大切なことなのに。天輝は、僕が女だったら友達でいてはくれないのかい?」
天輝、反省。(笑)
「わかってはいたんだがなぁ。やっぱこう、実際その状況になってみるとこう、……悪い癖だな。」
天輝は照れくさそうに頭を掻いた。今回の件に関してはかっこ悪いことばかりである。
キルルはため息をついたが、顔は笑っていた。
「でも天輝は少しずつちゃんとわかってくれる。僕の話を聞いてわかろうとしてくれる。僕は天輝のことが大好きだよ。」
「まぁ!やっぱり妬けちゃうわ!ライバルね天輝!」
内心「宇宙人にライバル認定されるおれって。」と思いながら天輝はかろうじて微笑んだ。
「でもキルルは男だし心配することないっスよテルルさん。」
何故か敬語を使って言うと、紫の発光体二人は一瞬その動きを止めた。
「天輝、……僕は男じゃないよ?」
天輝、末期症状。
「だって僕たちに性別はないんだ。一応細胞分裂も出来るよ?僕とテルルは国の国交のために婚約が決められてるんだ。」
キルルやテルルといった紫の物体が自由に分裂を繰り返す惑星のことを頭に浮かべて、天輝は気が遠くなった。
天輝、臨終。
天輝が倒れた後でテルルが声をひそめて言った。
「天輝って面白いわね。私なんだか天輝が気に入ってきたわ。今度私も遊びに行こうかしら?」
天輝に不幸な予感を残したまま終わる。
一応続く。