『銀河系、そのはるか彼方から。』

 どうにもならない寂しさはどうすればいいのだろう。
人の魂が一人である限り心の根底に流れ一時として絶えることのない寂しさ―――。

 天輝がこの生きモノを見つけたのはついさっきのことだった。
電柱の影にうずくまる、紫の発光体。
よく見れば人の形をしているようにも見え、その体は寒さに凍えていた。
天輝はその物体をじろじろ見回したあと、しばらく考えた。

―――これ、イキモンだよな?
なんでオレの家の前でうずくまってんだよ。
いやがらせ?
冗談じゃねーよ。他の家にやれよ。―――

等々。
いろいろ考えて、彼は結局しらんふりを決めこむことにした。
が。(1回目。)
彼が玄関に手をかけたとき、ふと、ある異様な視線に気がついたのだ。

―――見てるし〜〜……―――

彼は青ざめた。
彼の目の前では紫の発光体が目を潤ませて無言で何かを訴えている。
どう考えてもまともな光景ではない。
心の中でひたすら「幻覚だってばよ。」と繰り返しても消えはしない。
天輝はとうとう覚悟を決めた。

「―――何してんの?」
それが、天輝とこの物体との最初の接触だった。
             ( BGM・『未知との遭遇』 )


「僕は銀河系のはるか彼方からここに来た。星では今ごろ大騒ぎだろう。うるさい従者たちも本当は僕のことなんかどうでもいい母も表面上は心配しているに違いない。………でも僕は知ってるんだ。それは僕が王子だからで僕自身を心配してるんじゃないってこと。国民はみんな僕に手を振ってくれるけど、そんなもの僕はいらない。僕が欲しいのは―――僕にだけ、僕自身にだけ笑ってくれる誰かなんだ。」

 天輝は声をかけてしまったことを激しく後悔した。
断ったら何されるかわからないと思い言われるままに部屋に入れ、話を聞いてやったが――――…………。
まさか彼も人生十八年目にしてこんな試練に出会うとは思っていなかったに違いない。
「だぁーもうっ。それは絶対オレじゃねーからとっとと出てけ!」
………と言いたかったが
話を聞く限りでは相手は宇宙人だ。
そんなことをしたら後でどうなるかわかったものではない。
「で、その誰かを地球に捜しに来たんスか?」
少しへりくだった言い方で天輝が尋ねると
「そうなんだ。でも地球の人はみんな冷たい。話しかけてもみんな逃げてくだけで何も言ってくれないんだ。」
と、その生きモノは答えた。
「そりゃそーだろ。」
天輝は思った。
が、これもやはりさっきと同じ理由で口には出さなかった。
「話してくれて、こんなふうに家にまで入れてくれたのはあなただけだ………。」
「うっ。やべぇ。どーするよオイ。目がうるるんモードだよ。好意もたれちまってるよ こんなモンに。」
天輝は心の中でうろたえた。
もちろんまちがっても口には出さない。
天輝は言葉を選びすぎて何を言っていいかわからずに口をパクパクさせていた。
「できればここに住ませてくれないかな。」
紫に光る物体はすがりつくような目で天輝を見つめている。
誰も自分を知らない星で、初めて話した地球人である。
天輝はこの紫の発光体の信頼を得ることに成功していた。
見る人が見れば地球人と異星人との交流の輝かしい第一歩に見えたかもしれない。
が。(2回目)
「冗談じゃねぇーっ!」
天輝はとうとうブチ切れた。
「なんでオレが宇宙人なんかと一緒に暮らさなきゃいけねーんだ ふざけんな!ああ、ああ。確かにオレは彼女いねーよ。でもなあ!宇宙人のしかも男と同棲するほど堕ちちゃいねーんだよっ!」
ハァ、ハァ、
息が切れる。
天輝はどなりちらしてから「しまった!」と思った。
宇宙人がどんな反応を返すか…………
不安と恐れをもってその様子を確認する。
場合によっては天輝の人生の終劇になるかもしれないのだ。
が。(3回目。)
紫の物体は思いっきり目を輝かせていた。
「すごい!やっぱり地球に来てよかった!僕の星では誰も僕と対等に話してくれないんだ!」
………………
天輝は思わずうろたえた。
そして人生あきらめたような顔をして
「もうどうにでもして………。」
とつぶやいた。

こうして天輝は紫の光る生きモノとともに一つ屋根の下で暮らすことになったとさ。
めでたしめでたし。 ちゃんちゃん。

と、昔話のように簡単に終わったりするはずもなく、これから天輝は悩み多き日々を過ごすことになるのである。


銀河系、そのはるか彼方から、今夜ここに降り立った。
彼の名前はキルル。
ぼんやりと紫に発光する異星人。
魂が一人である限り絶えることなく心の片隅に流れる寂しさ、その孤独を癒す術を求めて――――。
とりあえずここで一話完。
一応続く。
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