プロローグ

 ― 地球 ―   美しく青き星、地球。

何世紀か前までそううたわれていたこの星は、たび重なる環境破壊によって今はもう薄いセピア色に染まってしまっている。それはヒトという生物の愚行の結果。ヒトは地球の悲鳴を聞き取れず、科学という名の魔法を万能だと信じて巨大な科学国家を作りあげていった。
ヒトは何かにつけ科学を利用した。まるでおもちゃに夢中になる子供のように。
生活はどんどん楽になり、今まで不可能とされていたことが可能になっていく。ヒトはこの快楽にとりつかれ、あることに気づかなかった。
『科学によってくるわされたモノが科学によってなおせるとは限らないのだ。』
と、いうことに気づかないヒト、気づいても科学の誘惑に負けたヒトは、地球がヒトにむけて送った『SOS』というシグナルを全く無視し、自分たちの魔法のさらなる発達にいっそう力をそそいだ。
海は赤く染まり、空はスモッグで覆われ、地は荒れ果てた。
清浄な空気の中で生活するためのドーム都市があちこちに建設され、地下水の過度な引き上げによって地盤沈下が多発した。このようにして自然界はことごとく破壊され、その影響は生態系にもおよんだ。
ヒトという生物の誕生、それは気が遠くなるほど長い地球の歴史の中で一番の悲劇であった。
地球を喰いつくし、それでもヒトは科学の力におぼれていく。
そんなヒトに罰があたったのか、何世紀か前にこの傲慢なヒトという種が絶滅寸前に追いやられたことがあった。ヒトの男性が持つ精子の数が著しく減少し、子孫を残すことが非常に困難になったのだ。一時期ヒトは地球上の人口すべてあわせて10万に満たなくなるほどまでに減ったことがあった。
しかし、ヒトはこの局面をやはり科学の力で乗り切ったのである。
すなわち人造人間とクローン、そして人工受精によって。
ヒトにとって科学とはまさに万能の魔法であった。
最大の危機を乗り越えたヒトは再び地上に繁栄し、その勢いはおさまることがなかった。あまりにもヒトの数が多すぎて、広いはずの地球はパンク寸前になった。住むところを求めて残り少ない海を埋め立て、低い山をけずり、汚れるだけ汚れた地球全体をさらに侵食しつくし…。
ヒトは同じことを繰り返していく。

――――そして、それは見つかったのだ。まるで時代に応えるかのように。


A.D.21XX年 銀河系惑星 登録a@0100273 発見。

発見者である宇宙飛行士、パラディス・リアンの名前をとって惑星パラディスと名付けられたその星は、人口の超過密という問題をかかえていたヒトが何よりも待ち望んでいた生命が生存可能な惑星である。
このことが報道されるやいなや、ほとんどすべてのヒトが惑星パラディス行きのチケットをやみつきになって奪いあった。
こぼれ落ちそうなぐらいの超過密状態にあった地球は、あっという間に極端な過疎の星となった。ヒトは地球を旧主星――かって中心であった星と呼び、パラディスのことを新主星――新たな中心の星と呼んだ。
誰もがセピア色に染まった地球に見切りをつけていた。
安い使い捨ての生活用品のように、ヒトは地球を見捨てたのだ。
突然見つかった新しい惑星に地球中のヒトが雪崩のごとく押し寄せたので、もちろん国や人種などもごちゃごちゃになり、組織力というものがまるで失われた。そこに、新主星の誕生を機会に旧主星での悪い膿をきれいさっぱり消し去ろうとする動きがあらわれ、これまでの国家や政治は粉々にうち砕かれた。
やがて新しい国家のもとにヒトが落ち着きを取り戻した頃――。


A.D.21XX年 銀河系  シャグラ三惑星 発見。

三惑星とも生命生存可能の惑星である。各国の首脳たちはシャグラ国境条約によってさっそく新惑星での国境を決定し、冷凍睡眠を用いて何万光年も先の惑星へ何千万人という移民を送りこんだ。しかし、考えればわかることだが何万光年という距離相手に条約などなんの意味も持たず、結局新しい惑星には新しい国が登場した。
それは惑星発見の度に繰り返され、その結果おびただしい数の国家が誕生し、互いに争うようになった。

―――かくて地球を侵食しつくしたヒトという種は、さながら害虫のごとくこの広大な大宇宙さえもむしばんでゆくこととなる。



そして、物語はここから始まる―――。
動乱とは遠くかけ離れた忘れられた惑星で―――。
続く。
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