『リーフェ』

 リーフェはとても美しい生き物でした。
リーフェの側に行くといい香りがして、リーフェを触るとつやつやした毛並みがとても気持ちがいいのです。
リーフェはみんなから愛されていました。
この世にリーフェのことが嫌いなひとはいませんでした。
リーフェ自身を除いては。
リーフェはきれいな自分が大嫌いでした。
多くのひとに囲まれていても、リーフェの心はいつも一人でした。
 リーフェは思いました。
さみしいなぁ。
僕はなんでこんな姿で生まれてきたんだろう。
僕は本当はきれいじゃないのに。心はとても醜いのに。
みんなは心も外見と同じだと思っているから僕はみんなに嫌われるのが怖くて思うままにふるまえないんだ。
たった一人でもいいから誰かありのままの僕を見てくれないかなぁ。
僕のことを全部知って、それでも好きだと言ってくれるひとはいないのかなぁ。
そのたった一人がいつか現れてくれることを、リーフェはいつも願っていました。

 やがて、リーフェのところにニーアがやってきました。
ニーアはとりたてて言うことも何もない、ごく普通の生き物でした。
ニーアはリーフェの悩みを真剣に聞いてくれて、本当のリーフェを知りたいとまで言ってくれました。
リーフェはとても喜びましたが、今まで必死に隠してきた本当の自分を見せるのはとても勇気がいることでした。
こんな自分を知ったらニーアは嫌になってどこかに行ってしまうんじゃないだろうか。
そう思うととても何もかもをさらけ出す気にはなれませんでした。
いつまでも本当の自分を出そうとしないリーフェを見て、ニーアはしだいに離れていきました。

 やっぱりリーフェは一人のままでした。

 そしてまたリーフェのところに誰かがやってきました。
グーダでした。
グーダは外見があまりにも醜いので、みんなに忌み嫌われている生き物でした。
リーフェは自分とグーダとどっちがつらいだろうと思いました。
グーダに聞いてみると、グーダはカンカンに怒ってしまいました。
あまりに醜くて誰も近寄ろうとさえしないグーダにとって、リーフェの悩みは贅沢なわがままだとしか思えなかったのです。
グーダは怒ったまま去ってしまいました。
リーフェはグーダの気持ちがあまり理解できませんでした。
グーダと自分では大事だと思うものが違うのだと思いました。
けれど、グーダの怒りはリーフェに大きな悲しみをもたらしました。
自分にはこの美しい姿だけではなくちゃんと心もあるのだということをみんな知らないのではないかと思ったからです。
みんなが好きだというのは見た目がたいへんきれいで当然のように心も澄んでいる作られたリーフェであって、本当の自分はみんなにとってどうでもいい、むしろ邪魔な存在なのだと、リーフェは改めて思い知らされた気がしました。

 やっぱりリーフェは一人のままでした。

 グーダが去ってから、リーフェはすっかり冷めてしまいました。
もうどうでもよくなってしまったリーフェの前に、今度はブーゴが現れました。
ブーゴはグーダよりも醜い生き物で、そして、グーダよりも一人でした。
ブーゴは自分の醜い姿が何よりも嫌いなため、同じブーゴ同士でも群れることをしないのです。
グーダよりもさみしいブーゴを見て、リーフェはもしかしてブーゴなら自分のことをわかってくれるかもしれないと思いました。
でもだめでした。
ブーゴはリーフェの言うことを何一つ信じようとはしませんでした。
リーフェが今まで怖くて見せることができなかった醜い部分を、どれだけさらしてみせてもだめでした。
ブーゴの目にはきれいなリーフェしか映らず、他のみんなと同じようにそれがリーフェのすべてなのだと思いこんでいるのでした。

 リーフェはやっぱり一人のままでした。

 リーフェは思いました。
さみしいなぁ。
僕はなんでこんな姿で生まれてきたんだろう。
たった一人でもいいから誰か本当の僕を見てくれないかなぁ。
僕のことを全部知って、それでも好きだと言ってくれるひとはいないのかなぁ。

さみしいリーフェの前に、たった一人のひとは現れるのでしょうか。

 リーフェは今も一人です。
おわり。
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