『世紀末恋愛事情』

  1999年、世紀末。
はたしてノストラダムスの予言は当たるのか?
いろんな雑誌が特集記事を掲載し、核兵器だの宇宙人だのという活字があふれかえった。

 『5月9日PM4時頃、○○県○○市○○町周辺の住民多数がUFOと思われる未確認飛行物体を発見。目撃者の多くはそのまま○○高校の方に消えていったと証言している。』
                         
                             「月刊超常現象」より。 


 1st.渡り廊下


 「好きだっ。」
谷口と草壁は同時に叫んでいた。
移動教室で通りすがった生徒たちが、何事かというふうに二人をじろじろ見ている。
中には面白がってひやかす奴らもいたが、谷口と草壁の耳には入らない。
二人にはお互いの声と姿しか届いていなかった。
「ホントか?」
またもや二人は同時に言った。そして同時にうなずいた。
こうしてここに一組のカップルが誕生した。

6月7日PM2時41分

 証言1 谷口 司の友人A
 
     「女に興味なんてまったくないようなスポーツバカだったのにどこをどう
     まちがえたんだかよりによって草壁なんかにほれちまってあっという間に
     告白しちまいやがんの。」
     
 証言2 草壁 璃緒の友人A

     「極度の男嫌いだったのに変われば変わるものね。正直驚いたわ。」
     
 証言3 当事者その1  谷口 司
 
     「草壁とは同じクラスで別になんとも思ってなかったけどある日突然ひと
     めぼれ?って言うのか?して、いてもたってもいられなくなって告白した。
     おれなんか相手にされねーって思ってたんですっげーうれしかった。」
     
 証言4 当事者その2  草壁 璃緒
 
     「私は男が嫌いだったし今でも嫌いだ。しかしなぜだろう?谷口は好きだ。
     忌まわしい男の一人として嫌っていたはずだがある日突然谷口を見ると動悸・
     息切れ・目眩・その他諸々の症状を起こすようになってしまった。医者に
     行こうとすると友人からそれは恋だと言われ、谷口に想いを明かした。」


 恋とはかくも激しいものか。


 2nd.放課後の教室


 二人の姿を夕日が飲み込んでいく。
他に誰もいない。二つの影と静かな机たちだけしか。
「あのさ、おれ、つきあうっていっても何すんだかさっぱりで……草壁退屈すると思うけど…でもおまえのこと好きだから。」
谷口は人差し指で鼻の頭をかいた。
「気にすることはない。私はおまえといれるだけでいい。」
草壁が言った。
「私はおまえを好きになれたことを喜んでいる。一生誰に対しても恋愛感情は持てないだろうと思っていた。」
「なんでだよ。」
谷口は首をかしげた。
「私は恋や愛を信じられなかった。」
「おれホントに草壁好きだぜ?」
「……理屈じゃない。永遠や純粋、そういうものがどうにも信じられない。今もそうだが、なぜか谷口に対しては信じたいと思っている。」
「信じろよ。おれはマジで運命の恋だと思った。……おれ一人バカみたいじゃん。」
谷口は顔を真っ赤にして小声で言った。
死ぬほどクサイことは自分でもわかっている。
「すまん。」
草壁はゆでだこ谷口に向かって微笑んだ。


 出会いはいつも運命。


 3rd.帰り道


 もうすっかり暗くなっていた。
二人とも家は学校からそれほど遠くない。二人並んでの帰り道もわずかの間だった。
「……。」
「……。」
二人とも、話す言葉が出てこない。
「おれこっちだ。じゃ、またな。」
「ああ。」
何も話せなかったが二人は幸せだった。
温かい何かに包まれているような感覚を感じていた。

 草壁は残りの帰り道をゆっくりと歩いた。
谷口のことを考えながら。
そして、ふいに後ろを振り返った。
誰もいない。
「気のせいか。」
気になるものを感じながらも草壁は家の玄関を開けた。
PM7時47分 草壁帰宅

 谷口は残りの帰り道をゆっくりと歩いた。
草壁のことを考えながら。
そして、ふいに後ろを振り返った。
誰もいない。
「ストーカーか?」
気になるものを感じながらも谷口は家の玄関を開けた。
PM7時53分 谷口帰宅


 幸せははかないからこそ。


 4th.告白から3週間後 中庭


 上から、降ってきた。
雨でも雪でも雹でも槍でもない。
ヤマハのグランドピアノ。
「危ない草壁っ!」
谷口はとっさに草壁をかかえて左にスライディングした。
「谷口っ!」
草壁とまわりの生徒が叫ぶ。
誰もが目をつぶった。

 1,2,3,4,5

………何も起こらない。
おそるおそる目を開ける。
………何もない。
4階の音楽室から草壁の上に落ちてきたはずのグランドピアノが消えていた。
ただ太陽がまぶしく光っているばかりだ。
その場にいた全員が上を見上げ、まばたきをくり返した。
深呼吸をして顔を見合わせ、さらに上を見上げる。
やはり何もない。
谷口と草壁も上を見上げていたが、やがて、一つの声を聞いた。
 『すばらしい。』
声は上の方から響いてきた。
そのとき確かにそれはいた。
太陽に重なって。
            ……未確認飛行物体。


Unidentified Flying Object = UFO



 5th.屋上


 『我々は宇宙人だ。地球人の調査のため君たちに協力してもらった。地球人の恋愛について実に興味深い調査結果が得られたことを感謝する。じきに審判の時が来る。君たちのデータは生存の可能性にプラスされるだろう。』
              6月22日AM11時38分 調査終了

 「信じられない話だが、とりあえず宇宙人の調査とやらは終わったらしい。」
「うそだろ。誰かのいたずらだ。」
「思いあたるところがある。私達のひとめぼれはある日突然だった。」
「………。」
「調査が終わったのなら、私達も終わりだな。」
「なっ、なに言って………おれはやっぱおまえ好きだぞ!」
「すべて仕組まれたことだ。運命ではなかった。」  
「おれのことはどう思ってんだ。あっという間に好きから嫌いになったのか?」
「………。」
「じゃ、いいじゃん。」
「………。」
「おれは…草壁のこと好きだし。……宇宙人のせいだってんなら宇宙人に感謝してやる。」
「……谷口。」
「それに宇宙人にくっつけられるなんてめったにないぜ。充分運命的だろ?」
「……ああ。そうだな。」



 証言1 谷口 司の友人A
 
     「草壁は変な奴だけど谷口は普通の奴じゃん?あれであの二人うまくいっ
     てんだから不思議だよなー。最初は絶対すぐ別れるって思ったのによー。」

 証言2 草壁 璃緒の友人A
 
     「いい人を捕まえたわよね。後は逃がさないことね。」

 証言3 当事者その1  谷口 司
 
     「ギャラがないのが納得いかねー。あの宇宙人せっこー。貧乏人か?普段
     読まない雑誌買ってまで文句言ったぜ。」

 証言4 当事者その2  草壁 璃緒
 
     「別に運命にこだわっているわけではないのでかまわないが、この感情は
     つくられたものだという観念がまだ残っている。しかし、なぜだろう?
     谷口が相手ならそれでもいいように感じる。」


 『○○県○○市○○町○○高校○○さんたちからの手紙

     宇宙人へ。

        ギャラ払え。
        グランドピアノは大迷惑。
        ストーカーはお断り。
        このやろうっ!
                   ………でも、さんきゅ。』

 
 「月刊超常現象読者投稿ページ」より。



 6th.1999年7月X日


 審判の時

たぶん、

人類は救われる。
END.
HOME