『ノストラダムスの大誤算』

1999年、7の月。
空からアンゴルモアの大王がなんたらかんたら。



とにかく滅びの予言を残した大予言者として世界的に有名だったノストラダムスは、そのときが無造作に過ぎ去ったとき一転して世紀のペテン師野郎、もしくは大マヌケじじいになった。


「あーあー。なんで外れたのかなー?絶対当たると思ったのにー。えっらそうな名前してるんだからいい仕事してよねー。」
私は大量の廃棄物の上で今日もノストラダムスに恨み言を言う。
もうこれは毎日の日課といってもいい。
ハッキリ言って私はノストラダムスを恨んでいた。
今日もこの世界は見渡す限りゴミ、ゴミ、ゴミ。
空はいつもどんよりとして青空なんか見たことないし、大気は一息吸えば咳が止まらなくなってしまうから外ではガスマスクを外したことがない。時折降り注ぐ雨は少しでも浴びようもんならガスマスクが溶けてしまう。
ゴミ以外何もない、最悪な世界。
愚痴を言うばかりで一向に手を動かさない私にじいちゃんが空き缶を投げてきた。
「毎日毎日同じ事ばっかり言うとらんでさっさと仕事せんかい。」
じいちゃんの姿はゴミに埋もれていてほとんど見えないので、適当に返事をしておけばごまかせるだろう。
「はいはーい。っと、うわぁっ!」
まるで天罰だとでもいうように頭上から大量のゴミが降り注ぐ。
ガスマスクをしているからいいものの、生ゴミなんかもあってかなり嫌な感じだ。大型のものがなくて良かったけれど嫌なものは嫌だ。
「ほれ、新入りさんじゃ。」
じいちゃんは私の不機嫌を知っていながら笑って言う。
「あーもおっ!信じらんない!あっちの奴ら何考えてるわけ?ちょっとはこっちの身にもなってよね!殺す気か、っつーの!」
「仕方ないじゃろう。あっちの世界の人間はこっちの世界の存在を知らんのじゃから。」
私はゴミの中で必死に体を動かしながらなんとか地上に生還した。
「だからって許せるもんじゃないわよ!あいつら何様のつもり?あっちの世界にだって影響が現れてるはずでしょ?だったら地球にとってどれだけ迷惑かわかるじゃない。それでも毎日この量なのよ!つーかホント迷惑だっつーの!訴えたい!マジで!」
「これこれ、おまえもあっちで普通に育っておったら今頃は毎日普通に地球を汚していたのかもしれんじゃろ。」
「うー」
私は何も言えなくなってうなった。

 ここは地球。

人間が普通に暮らしている空間とは少しずれたところにある、それでも同じ地球。
その証拠に毎日あっちの世界で出た大量のゴミがこっちの世界に雪崩れ込んでいる。あっちの世界の人間は気づいてないらしいけどあの世界がまだゴミに埋め尽くされていないのはその分こっちの世界に流れてきているからだ。もちろん燃えるゴミ燃えないゴミとかだけではなく、有害な汚染物質なども容赦なく入ってきている。時々死体なども入ってくる。まさに最っ悪のはきだめ状態…

私とじいちゃんは悪戦苦闘しながらゴミを処理しているけど二人の手で処理できる量はほんの微々たるものだ。
花の乙女がゴミの山に埋もれながら休む間もなくゴミ処理…私が出したゴミでもないのになんでこんな目にあわなければならないのか…。
この世界に迷い込んで十年。
もういいかげん我慢の限界の限界の限界の限界の限界の限界あたりがきれてきれてきれてきれてきれてきれてきれまくっている。
ノストラのおっさん出てこいやー!謝罪しろ謝罪ー!なんでさっさと地球滅ぼしちゃわないのよ恐怖の大王とかなんとかー!労働基準法で訴えるぞバカヤロー!
ああ…海に向かって叫びたい…でもこの世界の海は毒々しい酸の海だから叫ぶ気にもなれないしゴミ山に向かって叫ぶしかない…そうすると余計腹が…
「だーっ!」
思わず叫ぶ私にまたじいちゃんが空き缶を投げてくる。
「まーた物騒なことを考えておるのじゃろ。地球にはたくさんの命があるのじゃぞ。それに地球がなくなったらこの世界も滅びるじゃろうが。」
「わーかってるわよそんなこたぁ。だから黒魔術の勉強とかしてないじゃないよ!」
私はとりあえず手を動かし始めた。
このままでは私の周りに空き缶の壁ができてしまう。
ゴミ山の中から使えそうなビニール袋を選んで空き缶を集める。生ゴミは生ゴミだけ、紙は紙だけ、プラスチックはプラスチックだけ、金属も細かく種類に分けて分別していく。
この作業は雨が降り出すか夜になるまで続く。とはいっても私は度々休憩をとっているが、じいちゃんはそれこそ一日中ゴミの処理をしている。
私は手を動かしながら横目でじいちゃんを見る。
じいちゃんの姿は見えない。
でも音が聞こえる。
じいちゃんは…絶対おかしい。
どれだけ頑張ってもこのゴミがなくなるわけないのに。
たった二人でどうにかできるわけないのに。
でもあっちの世界に戻れないからにはこのゴミをなんとかしないといけないってのはわかるけど、私はもう十年、じいちゃんはもっと長い間、同じ事を毎日繰り返している。
減るどころか増え続けるゴミを相手にずっとずっと、たぶんこれから先もずっと。
なんでじいちゃんは…ノストラダムスの横っ面はったおしてやりたいとか思わないんだろう。
「またさぼっておるじゃろー!」
考え事をしている間に手が止まっていたらしい。
空き缶が飛んできた。
「どーもすいませんでしたー。」
私はしぶしぶ作業に専念した。


 どんよりとした空がさらに暗くなり始めると私とじいちゃんは家路につく。
両手に持てるだけのゴミ袋を持って、何度も家まで往復する。
ようやく運び終えると今度はゴミの中から家を掘り出す作業に入る。
家の周辺は一時間ごとに片付けてはいるがそれでも入り口が埋まってしまっている時がある。
家に入れるのはたいてい辺りが真っ暗になってしまってからだった。
家に入っても作業は終わらない。
まとめたゴミをそれぞれの方法で処理するのだ。
この家には不思議な機械がたくさんある。全部じいちゃんが作ったものだ。じいちゃんはあっちの世界では天才と呼ばれていたものすごい科学者だったらしい。この世界に迷い込んでしまってからこのゴミをなんとかできないものかと試行錯誤し、何年もかけて作ったそうだ。
ゴミしかない世界でそんなものを作ってしまうんだからじいちゃんは本当にすごい人だったんだと思う。
「じいちゃん、まずはご飯食べよ。」
私はテーブルにカップラーメンを置いた。
未開封の綺麗な状態のものだがこれももちろんゴミの山から掘り出したものだ。
カップラーメンをどんぶりに移してお湯を入れる。
こっちの世界に来てすぐにカップラーメンについている器にお湯を入れるとダイオキシンとかいうなんだかわからないけどとにかく有害な物質が発生すると教わったからだ。
なんで食べ物に毒を仕込むような真似をするのかよくわからないけど、こういうことは結構あるらしい。
「明日の天気は?雨?」
「いや、たぶん晴れるじゃろう。」
私はカップラーメンを食べながら心の中でちぇっ、と思う。
「残念じゃったな。」
「うん。残念!すっごく残念ホントに残念!」
じいちゃんは雨の日が嫌いみたいだけど私は大好きだ。
雨が降れば外に出なくてすむ。
家の中に入る分だけのゴミ処理はしなければならないけど、あの一面のゴミと向かい合わなくてすむのだ。
「さあ、食べ終わったらもう一仕事じゃぞ。」
じいちゃんはすぐに食べ終えて機械の方に向かった。
「へいへーい。」
私は適当な返事をしてスープをすする。
遠くの方で聞き慣れた音が聞こえる。
またどこかにゴミが雪崩れ込んできたのだろう。
そして近くの方で聞き慣れた作動音が聞こえる。
じいちゃんがゴミの処理をしている音だ。
私はどんぶりを置いて力いっぱいのびをした。

「さあ、そろそろおまえは寝る時間じゃ。」
「んーもうちょっと大丈夫よーん。」
「ダメじゃ。目が半分閉じておるぞ。ケガをされては敵わん。おまえは明日からの仕事をわし一人でさせる気か?」
「わーかりましたっ。」
私はじいちゃんにどなって寝室に向かった。
本当は知っている。
じいちゃんはあんなふうに言うけど心から私のことを心配しているんだっていうこと。
じいちゃんが毎日ほんの少ししか眠っていないこと。
「ぼーけぼーけぼけ老人ー」
「こりゃっ」
じいちゃんの怒る声が聞こえたが私は舌を出してやった。
寝室の扉を開けるとゴミでできたベッドが私を迎えてくれる。
家の中のものはほとんどゴミでできているのだ。
私はごろんと横になった。
「ノストラのおっさんもさー、余計な期待抱かせないでほしいわよねホント。こちとら7月の最後の日まで今か今かと待ってたのにさ。じいちゃんにはぼーっとしてないで手を動かせって怒られたけど…」
私は小さくつぶやく。
家の壁は薄い。普通に喋ったらじいちゃんに聞こえてしまう。
でもどうしても口に出してやりたい言葉というのはある。
「あー殴りたい殴りたい。はずすんだったら最初っから予言するなっての。」
ため息をつきながら目を閉じると、機械の作動音が少し大きく聞こえる。
じいちゃんは今日も夜遅くまでゴミの処理をするんだろう。
時々じいちゃんが咳き込んでいるのも聞こえてくる。
じいちゃんは胸をやられている。
それを知ったとき止めたけど、真剣に止めたけど、じいちゃんはとりあってはくれなかった。

無理すんなくそじじい。

私は言いたいけど言えない言葉を飲み込んで眠りについた。


 次の日私は見るからにご機嫌だった。
じいちゃんの天気予報がはずれて雨が降ったのだ。
「やっぱ日頃の行いいいんだわ私。」
「よく言うわい。」
じいちゃんは呆れながら機械に向かっている。
「ねーじいちゃん。ノストラダムスってさー単なる大嘘つきだったのかなーなんかご立派な予言残して名声を得たかったとかさー実はいつも馬鹿にされてて世間を見返してやりたかったとかさー」
私はさぼっていることをごまかすためにそんな話題をふった。
効果はあまり期待できないが、実際聞いてみたかったことでもあったのだ。
「まだノストラダムスにこだわっておったのか。」
あーやっぱ怒られて終わりかー。
と思ったら、意外にもじいちゃんはちゃんと答えてくれた。
「わしはノストラダムスは立派な人じゃったと思うぞ。人間には終末予言が必要なんじゃよ。」
「なんで!やっぱみんな世界が滅びた方がいいって思ってんの?」
「違うわっ。人間にはの、どこかでストップをかけるものが必要なんじゃ。滅びの予言は人間に滅びの理由を考えさせる機会をくれる。人間はそうした戒めがなければどこまでも傲慢に、他のものをかえり見ずに突っ走ってしまうからのぉ。」
「でもはずれたじゃん。」
私はぶーたれて言った。
私の恨みは深いのだ。
「当たるかどうかではない、あることが大切なんじゃよ。ノストラダムスが実際何を考えておったかはわからんが人々が自分たちが何故滅びてしまうのかを考えればその予言は成功したと言えるのではないかな?」
じいちゃんは笑いながら言ったけど、私は納得できない。
だって、1999年が過ぎる前でも過ぎた後でもこの世界に入ってくるゴミの増え方は変わらない。
空はますます黒ずんでいくし、海もますます異様な色になっていく。
死体や兵器だってたくさん転がっているし、普通のゴミに至ってはとどまるところをしらない。
「誰もなんで滅びるのかなんて考えてないじゃん。ノストラダムスって結局役に立たなかったんじゃん。人間の心までは計算に入れてなかったんじゃないの?どうせなら予言なんて残してくれない方がよかったのに。」
じいちゃんは作業する手を止めて私に向き直った。
「おまえはずっといっそ滅びてしまった方がいいという考え方じゃな。」
怒られるにしてもいつもと違う雰囲気に私は少し怯む。
「だって…そうじゃない。その方が地球にとってもすっきりするに違いないしさ。」
「それはおまえが自分のことしか考えておらんからじゃ。地球にはたくさんの人間達がすんでいる。夫婦や親子や色々な。そしてたくさんの動植物が生きておるのじゃ。おまえはそれをわかっておらん。」
私は何も言えなくなって、むしゃくしゃした気持ちでいっぱいになった。
八つ当たりでもなんでもいいからじいちゃんに何か言ってやりたかった。
じいちゃんを思いきりにらみつける。
つもりが、私は思わず固まらずにはいられなかった。

「じいちゃん!」

じいちゃんが血を吐いて倒れたのだ。
私は急いでじいちゃんに駆け寄った。
「聞いてない!聞いてないよじいちゃん!こんなにひどかったなんて聞いてない!」
じいちゃんの胸元は真っ赤だった。
私はどうしていいかわからなくてただわめきちらした。

嘘だ。
これは嘘だ。
こんなのって、世界が滅びるよりひどい。

「ああ、うるさいわい。おまえのきんきん声は頭に響く。」
「じいちゃん!許さないからね!絶対死なないでよ!」
私はじいちゃんを引きずって寝室に連れて行こうとした。
でもじいちゃんが私を制止する。
「自分で歩けるわい。」
じいちゃんはよろよろと起きあがって機械を触りだした。
「何やってんのよ!さっさと大人しく寝なさいよ!」
私にはじいちゃんが理解できなかった。
こんな、こんなに血を吐いたのにまだゴミを処理しようとするなんて…
じいちゃんは狂ってしまったのだろうかと思った。
「わしは…向こうの世界に両親と妻と子供を置いてきた…そしてこの世界が向こうの廃棄物の多くを受け入れているのだと知ったとき必死でなんとかできないものかと考えた…最初は…どうにかして帰れないものかと思っていたがの、両親や妻や子供を愛しているからこそここに残ったのじゃ。」
「るっさいよ!何思い出話なんかしてんのよ!」
私はじいちゃんにこれ以上何も喋ってほしくなかった。
だって、こんなときにそんな話をするなんてまるで遺言みたいだ。
私はじいちゃんの背中にすがりついて泣いた。
「もうやめてよぉ……」
「長かったのぉ…もう嫌だと思ったことが数えきれないほどあった。わしがどれだけ頑張ってもゴミは減らない…まるで終わりのない地獄にいるようじゃった。」
じいちゃんはやめてくれない。
優しい声で、十年間聞いてきた声で語り続ける。
「そんなときおまえがゴミと一緒に落ちてきたのじゃ。おまえにとっては不幸じゃったが、わしにとってはこれほど嬉しいことはなかった。わしは…おまえを…本当の孫のように……」
じいちゃんが胸を押さえて咳き込む。
そのたびに血が飛び散る。
嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ。
この地面も空も海も大気もすべてが汚れ続けていく世界で、生きていても意味のない、毎日ゴミと向かい合うだけの世界で、未来なんてかけらもない、滅びしかないくせに今日も存在している世界で、それでも生きてこられたのはじいちゃんがいてくれたからだった。
何度死のうと思ったかわからない。
何度世界が滅びてしまえばいいと思ったかわからない。
それでも毎日生きていたのはじいちゃんのせい、じいちゃんのおかげだ。
じいちゃんが死んでしまったら私は……

「おまえは、生きるのじゃぞ。」

私は……

「な、に……言ってんのよ。そんなの無理よ!こんなっこんな世界に私一人で……っ」
喉が震えてまともに喋れなくなった私にじいちゃんが奥の部屋を指し示す。
「あそこに…向こうの世界に帰るための装置がある。あれを使えばおそらく帰れるはずじゃ。今までわしのわがままで教えずにいた。すまんかったのう。さあ、行っておいで。簡単に使えるはずじゃ。」
「嫌。」
そんなことは望んでいない。
私が望んでいるのはじいちゃんと一緒に死ぬこと。
それがダメだっていうのならじいちゃんを殺す世界を滅ぼしてやる。
世界に復讐してから死んでやる。
「行かないからね絶対…わ、私は……ずっと!ずっとこんな世界滅んじゃえって思ってきたんだから!他のものなんてどうでもいいんだから!なんでよ!なんでじいちゃんがこんなめにあわなきゃいけないのよ!あっちの世界で暮らしている人間は何も知らずにどうしてじいちゃんを殺すの!私たちにこんな地獄を見せて……っ世界なんて滅んじゃえばいい!どうせそのうち滅ぶんだから!さっさと滅んじゃえばいい!」
いつもこんなこと言ったら絶対怒るのにじいちゃんは怒らなかった。
ただ悲しそうな顔をして私を見ていた。
その表情が余計私の心を泡立たせる。
「わしは…おまえを愛しておるよ。向こうの世界にいる両親も、妻も子供も愛しておる。向こうの世界におった頃の記憶を愛しておる。そしてこの世界でおまえと共に暮らした記憶も愛しておる。わしは世界を愛しておるよ。滅びを願ったときも…死を願ったときもおまえを愛しておるから生きてこられた……両親は…おそらくもう亡くなってしまったじゃろう…妻も子供も今どうしているのかわからない……そしておまえがもしわしより先に逝ってもわしはたぶんこの世界を滅ぼすことはできないじゃろう。」

この十年間いつでもじいちゃんがそばにいた。
じいちゃんはよく怒ったしよく殴ったし色々あったけど…いつでも優しかった。
元の世界が恋しくて泣いた夜じいちゃんが慰めてくれた。
滅亡を願ってやまない私をいつでも怒ってくれた。
じいちゃんは…
じいちゃんは…
ずるい。

「だい…好きだよぉ……大っ嫌いだけど……大好き。じいちゃんを作った世界だから……だから……っ、だから……」

滅びの予言が成就するのを願うことしかしなかった。
滅んでしまえと心から願いながらどこかでそれでも、と思っていたのだ。
私はじいちゃんに抱きついた。
じいちゃんはそっと抱きしめ返してくれた。
私はただただ泣きじゃくった。

だんだん、色んなことがわかってきた。
地球にはたくさんの命がすんでいる。
その命の一つ一つに、私にとってのじいちゃんのような存在がいるのだ。
この星には…たくさんの私がいてたくさんのじいちゃんがいる。
当たり前のことかもしれないけど…やっとわかった。
私は世界を滅ぼせない。
じいちゃんと暮らした十年間があるから。
向こうの世界の両親たちもほとんど思い出せないけどたぶん大事だから。
じいちゃんが大切に思ってくれている私を私自身が嫌いになりたくないから。
大事なものがたくさんあるから。
たくさんの私とたくさんのじいちゃんにも大事なものがたくさんあるはずだから。


 「新入りさんじゃぞーい。」
「うっひゃああああああっ」
狙い澄ましたように私の頭上にゴミが降り注ぐ。
「神様は罰をあてにゃならん奴をよう知っておるようじゃな。」
じいちゃんが笑う。
私はゴミの中でもがきながら大声で叫んだ。
「るっさいわい!さっさと休んでなさいよ!もう若くない上に体まで壊した大馬鹿じじいなんだから!」
怒声が返ってくるかと思いきや、じいちゃんは飄々とした調子で言った。
「ほーう、そうじゃの。では休ませてもらうとするわい。今日の分はすべておまえがこなすのじゃぞ。」
「えっ。げっ。嘘っ。い、いいわよ!やったるわよ!私にやってできないことはないっつーことを思い知らせてやろうじゃないよ!」
私が一気にゴミの山から顔を出すと、穏やかに笑っているじいちゃんの顔がすぐそこにあった。
「少し胸が痛むでな、家に入って作業をしておる。ノルマの半分でええから外の分は頼んだぞ。」
私は頷いてすぐに作業にとりかかった。
あれから私はじいちゃんを説得して一日で処理するノルマを決定した。
その量が終わったらじいちゃんには休んでもらっている。私はこっそり作業し続けているけどたぶんじいちゃんにはわかってるんだろうと思う。
じいちゃんが生きているうちに、少しでもゴミが減った世界を見せてやるのだ。
それと、私が世界を愛していると、じいちゃんがいなくなってしまっても愛していけると、感じさせたい。
毎日入ってくるゴミの量は減るどころか増える一方だけど、今でも世界が滅びてしまえばと思ってしまうことはあるけど、たぶんもう大丈夫だ。
私はずっと今の気持ちを忘れずにいられるだろう。
「ったく、ノストラのおっさんもふがいないっつーのよねー。人間が滅びの予言如きで怯むことはないっつーのをちゃんと計算に入れてよねー。まぁ、しゃーないから尻ぬぐいしてやっかぁ。誰も知らないところで世界を救ってるってぇのもかっこいいかもしれないしね。」
そして私は今日もノストラダムスに恨み言を言いながらゴミの山に立ち向かうのだった。

世界を滅ぼさせないために。
END.
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